編集の時代

2026年8月26日 | てらすラボ | つながる | terrace-lab

編集の時代

AIの進化により、地域の魅力を見つけ出し、編集する重要性が増しています。新たな可能性を探るプロジェクト「水土」の取り組みを紹介します。

最近、ちょっと面白い記事を読みました。

アメリカのAI企業が、編集者やライター、ジャーナリストといった「言葉を扱う人」をかなり積極的に採用しているという話です。

少し前までは、「AIがビジネスに浸透するにつれ、なくなる商売」上位にランクインしていたのがこれらの職業。

「AIが文章を書くようになったら、真っ先に仕事がなくなるのがライターや編集者じゃないか」

と言われていました。

 

ところが実際には、AIがつくった文章を読んで、「こっちのほうがいい」「これはちょっと違う」「これはAIっぽいので要修正」「いや、AIぽくて何が悪い?」「そもそも、この問いがおかしい」などなど、『判断できる人』が必要になっているのが現実なのです。

考えてみれば、当然のことなのかもしれませんね。

 

AIで私たちは、とにかくたくさんのものを生み出せるようになりました。

文章もつくれるし、画像もつくれる。なんだって調べれば答えを出してくれる。バーチャルで自律した自分を動かすことも出来る。そのうちリアルも。

そんな中、たくさん出てきたものの中から「これだ」と選ぶこと、これは全く別の仕事です。

何が面白いのか。 何が大事なのか。

これでいいのか?これでいいのだ。(バカボンは人間として真っ当なことを言っていたかも) AとBをつなげた時に、C以上の新しいものが見えてくるのか。

 

「昔から編集者がやってきたことじゃないのか?」と思うのです。

 

そう考えていたときに、ふと共通点を感じたのが、いま私が「新日本酒の教科書」著者の押尾さんを中心に取り組んでいる地域創生プロジェクト「水土(すいど)」。

水土は、今まで編集者が本づくりでやってきたことを、蔵を中心とした地域を舞台にやろうとしているのではないか、と気づきました。

水土とは何か?

日本酒を入口にして、その土地の水、土、人を記録していくプロジェクトです。酒造りには水と米が必須であり、米には良い土壌が必要。つまり水と土。だから水土と名付けました。

 

最初の舞台は、新潟県上越市のある地区。

 

ここには酒があります。 米があります。 田んぼがあります。 雪があります。 水があります。

それに加えて、この土地独自のものがあるのです。地元の人には当たり前でも、私たちが当たり前を唯一無二に変える。

それは私たちが行くずっと前から、「当たり前」はそこにありました。

酒を造っている人も、米をつくっている人も、地域の祭りも、昔からあります。

その独自性に気づき、皆が興味を持ち魅力を感じる持ち味に変えることができます。

私たちが新しく何かを「創る」わけではないんです。

 

むしろ逆で、すでにあるものを、ちゃんと見る。

話を聞く。

写真を撮る。

調べる。

そして、一見関係なさそうなもの同士をつないでみる。

「ああ、だからこの土地で、この酒ができるのか」

そこまで伝わったとき、単なる「日本酒」という商品が、少し違って見えてくるのではないかと思っています。

 

私たちはプロジェクトの立ち上がりにおいては、水土を「日本酒の本をつくるプロジェクト」と考えていました。

でも、進めていくうちに、どうもそれだけではないなと思うようになりました。

本をつくるだけなら、本をつくって終わりです。

でも、せっかく地域に入るのであれば、そこで出会った人や食や風景も一緒に伝えたい。

だったら実際にこの土地へ来てもらったほうがいい。

来てもらうなら、地元の料理と酒を楽しんでもらいたい。

酒を飲んで気に入ってもらえたら、その後も買ってもらえるかもしれない。

地域へ来たことのない人でも、写真や文章を読み、クラウドファンディングで地域を応援してくれるかもしれない。

そうやって考えていくと、本、酒、食、観光、イベント、地域の人たちが、少しずつつながってきます。

私たちがやろうとしているのは、本を編集することではなくて、もしかすると「地域を編集する」ことなのかもしれない。

 

編集というとこれまでは、原稿を直したり、見出しをつけたり、ページを組み立てたりする仕事。

私たちシーティーイーも長くDTPや出版制作をやってきましたから、「編集」はずっと身近な言葉でした。

でも、本来はもう少し広い仕事なのではないでしょうか。

バラバラに存在しているものを見つけて、つなぐ。

まだ名前のついていない価値に、名前をつける。

誰かにとっては当たり前になっているものを、別の場所にいる人に伝わるようにする。

そう考えると、編集できるのは文章だけではありません。

地域だって編集できる。

会社だって編集できる。

商品やサービスも、人と人との関係も編集できる。

 

ここで、冒頭のAIと編集者の話に戻ります。

AIの世界には、情報が山ほどあります。

地域にも、実は同じくらい「素材」があります。

問題は、素材がないことではない。

ありすぎて、その価値が見えていないことなのではないか。

だからAI企業が編集者を必要とするのと同じように、これからは地域にも編集者が必要になる。

 

そんなことを、水土をやりながら考えるようになりました。

そして、これは私たち自身の仕事にも返ってきます。

これまで私たちは、本をつくる、DTPをする、Webをつくる、といった「つくる仕事」をたくさんやってきました。

AIが進化すれば、「つくる」こと自体は、これからどんどん簡単になっていくでしょう。

だったら私たちは、その一つ手前に行けばいい。

まだ、答えはありません。

水土も始まったばかりで、最初の地域で何ができるのか、私たち自身まだ全部は見えていません。

だからこそ、やってみようと思っています。

酒をつくる会社ではない私たちが、日本酒のプロジェクトをやる。

観光会社でもない私たちが、人を地域へ呼ぼうとする。

地域コンサルタントでもない私たちが、地域の人たちの間に入る。

一見すると、ずいぶん遠回りなことをやっています。

でも、それぞれの間にあるものを見つけて、つないで、意味をつくることが「編集」なのだとしたら、案外、私たちがずっとやってきた仕事の延長なのかもしれません。

 

一冊の本を編集するように、ひとつの地域を編集してみる。

その先に何が生まれるのか。

水土は、その実験でもあります。

Written By: 藤田陽司