カルビー「じゃがりこ」は年間4億個も生産されるという国民的スナックです。
でも開発当初は、その独特の食感から「こんなに固いお菓子は売れない」と社内外で酷評されていたとか。
それがなぜ売れたのか? いや、そもそもなぜ市場に出したのか?
理由は簡単。
「完成より先に発売日が決まっていたから」
です。
仲間内でも「売れない」と言われる、ということは裏を返せば、他にはない商品でした。そのため、コンビニからはむしろ期待されていたんですね。そこで、まだ課題を残した状態でテスト販売に踏み切ります。
すると、これが大成功。
販売後にトラブルも起きました。それでも一つひとつ改良しながら全国発売にこぎつけ、現在では年間4億個を生産するメガヒット商品へと育っていきました。
当時の開発者は後に「完璧な商品を待っていたら、販売できなかったかもしれない」という趣旨のことを語っています。
普通、ものづくりは、
「できてから売る」
の順番ですよね? いい商品を考え、試作を重ね、完成度を高めてから市場へ出します。
じゃがりこは、ある意味でその逆でした。
「売ってからできる」
まず市場に出す。そこで起きたことから学び、直しながら完成させていきました。
「売ってからできる」が誰にでも
言われてみれば、じゃがりこって確かに変わったお菓子ですよね。あれだけ売れていて、スナック菓子は次々と登場するのに、似たような商品も見当たらない。ふつうのセオリーではつくれない、もしかしたら、こういうめぐり合わせがなければ、誕生しなかった商品なのかもしれません。
2026年の今、このじゃがりこの誕生秘話には、貴重な示唆があるように思います。というより、現代のものづくりはどんどん「じゃがりこ型」、つまり「売ってからできる」に近づいていくんじゃないでしょうか。
現代ビジネスで求められるのはスピードです。
市場も技術も、人々の関心もどんどん変わります。商品の賞味期限は短くなっています。時間をかけて議論し、仕様を固め、ピカピカに磨き上げてから世に出す。そのころには、前提そのものが変わっている、なんてことがふつうに起こるでしょう。
「できてから売る」では、追いつかないんです。
そして、インターネットや生成AI、3Dプリンターによって、ものづくりはずっとやりやすくなりました。
アイデアが浮かんだら、AIを使ってまずプロトタイプをつくる。人に見せる。使ってもらう。反応を見る。うまくいかなければ直す。思わぬ反応があれば、そちらへ方向を変える。ものづくりのサイクルが変わっているんですね。
考える → 完成させる → 世に出す
ではなく、
とりあえず形にする → 世に出す → 反応を見る → またつくる。
少なくともデジタルプロダクトについては、「できてから売る」という発想は、早晩なくなるはずです。
しかも、いまやそれを実践できるのは、技術者など「つくれる人」だけではありません。
2026年、Anthropic社が開催したハッカソンでは、ソフトウェアエンジニアではなく弁護士が優勝したといいます。
彼がつくったのは、建築許可申請の図面や行政からの指摘をAIで読み解き、修正すべきポイントを示すアプリケーション。本人は「コードを一行も書いていないし、一行も読んでいない」と言っています。
しかもAnthropicによれば、上位5組のうち4組はプロのソフトウェア開発者ではなかったそうです。
これまでは、アイデアを思いついても、それを実際につくれるとは限りませんでした。エンジニアやデザイナーなど、別の誰かの力を借りて、ようやく試すことができました。
でも、その前提は崩れつつあります。
誰もが「売ってからできる」ができるようになれば、世の中に出るものは、もっと多様になるはず。ひとつひとつは未完成かもしれませんが、そのほうが楽しい社会になると思いませんか?
じゃがりこのような前例にもセオリーにもない商品が、どんどん誕生する未来が楽しみです。