「伝わる赤字」と「伝わらない赤字」の違いとは? 制作現場のコミュニケーションを考える

2026年10月29日 | てらすラボ | 学ぶ

「伝わる赤字」と「伝わらない赤字」の違いとは? 制作現場のコミュニケーションを考える

DTP制作を加速させる「新・校正スタンダード」 【第2回】(実践・コミュニケーション編)

制作物の品質を左右する、もう一つの技術

書籍や雑誌、チラシ、パンフレットなどの制作物。その品質を左右するのは、文章力やデザインのセンスだけではありません。
制作に携わる人たちの間で、意図が正しく共有されているかどうか。それも、仕上がりを左右する重要な要素です。

例えば編集者が「字間・行間詰まりすぎ。もう少し読みやすくしてほしいな…」と考え、DTPオペレーターに「この部分、読み易く」と記し、修正を依頼したとします。出来上がったものを見ると、文字が大きくなっており、行間は逆に詰まり、かえって読みにくくなってしまった。

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オペレーターは指示に応えようとしたのに、編集者が期待した仕上がりとは違っていたわけです。こうした行き違いは、決して珍しいことではありません。
問題は、どちらの技術が不足していたかではなく、「何を実現したかったのか」が十分に共有されていなかったことにあります。

今回は、編集者やデザイナーとDTPオペレーターの間で交わされる修正指示、いわゆる「赤字」を題材に、制作工程の品質と生産性を高めるコミュニケーションについて考えてみます。
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「この部分、読み易く」では、何が足りないのか

長年一緒に仕事をしている相手なら、「いつもの感じで」という一言を書けば、十分に伝わることもあります。しかしそれは「属人化」の第1歩であり、生産管理的には絶対にNGです。

例えば、会社案内の見開きページで、編集者から次のような指示が出されたとしましょう。

「右ページのグラフをもう少し目立たせてください」

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これだけで、オペレーターは果たして最適解を出せるでしょうか?

  • グラフそのものを大きくするのか
  • 周囲の余白を広げるのか
  • 色のコントラストを強めるのか
  • 見出しとの位置関係を変えるのか

いずれもグラフを目立たせるためのデザイン的解決ですが、作業の仕上がりは大きく異なります。
では、次のような指示ならどうでしょうか。

「グラフ内の文字数が多めで読みづらいため、グラフ全体を10mm程度広げて、文字の大きさを調整してください」
これなら、何を優先すべきかが分かりますね!

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さらに、配置の基準となるラフや参考ページがあれば、完成イメージはより明確になります。良い指示とは、単に言葉を細かくすることではありません。

「なぜ修正するのか」

重要なのは、修正の目的と、判断の基準を相手に渡すことなのです。

数値で指示すれば、それで十分なのか

「曖昧な指示を避けるには、数字で指定するのがよい」とよく言われます。
確かに、文字サイズや余白、色などを数値で示すことは、制作現場では非常に有効です。
例えば、「見出しを少し大きく」という指示より、「見出しを22ポイントに変更」という指示の方が、作業内容は明確です。

しかし、ここで考えたいのは、数字が明確であることと、適切な仕上がりになることは同じではないという点です。
例えば、見出しを22ポイントに変更した結果、文字が2行に折り返され、本文や写真の配置に影響する場合もあります。

数字通りに修正することだけが正解なら、オペレーターはそのまま作業すればよいでしょう。しかし、編集者が本当に求めていたのは、「見出しを目立たせること」だったかもしれません。
そうであれば、
「見出しをもっと強調したい。22ポイントくらい?改行や本文とのバランスに問題があれば、調整してください」
という指示の方が、結果としてよい制作物につながる可能性があります。もちろん、指定の書体やサイズを厳守しなければならない案件もあります。その場合は、指定数値が変更不可であることを明示する必要があります。
これは、編集者のみならず、作業指示を伝えるべき皆様にも通じることです。
必ず守ってほしい基本ルールを伝える。加えてもう一つ、指示の目的も伝える。
最低限、この2つがあると、作業の判断が格段に容易になります。

「考えさせない」のではなく、「悩ませない」

修正指示を出すことは、一切考える余地をなくすことではありません。
編集者(指示出す側)とオペレーター(指示を読み解く側)、それぞれプロフェッショナルなのですから、専門性を生かすことが重要です。

例えば、雑誌の特集ページで、本文が予定より数行多くなったとします。編集者が、「文字あふれを調整し、1ページに収めてください」と指示した場合、オペレーターは文字を小さくするのか、行間を詰めるのか、写真を縮小するのか、判断に迷います。

ここで、
「文字あふれを調整し、1ページに収めたい。行間を調整し、文字サイズと行送り、写真の大きさは変更しないでください」
と伝えれば、優先順位が明確になります。

調整の余地を残しながら、守るべき条件を示しているわけです。
さらに、その条件では収まらない場合に、編集者へ相談できる関係であれば、無理な詰め込みや意図しないレイアウト変更も防げます。優れた指示とは、相手の判断を奪うものではありません。

判断に必要な情報を渡し、迷うべきでないところで迷わせないこと。そこにプロ同士のコミュニケーションの価値があります。

「伝わる赤字」に共通する三つの要素

では、実際にどのような赤字がオペレーターにとって分かりやすいのでしょうか。ポイントは、先ほどの「条件」「目的」に加えて「完成イメージ」を加えることで、「伝わる赤字」となります。

完成イメージを共有するとは、例えば、「写真を大きくしてください」という指示に加えて、簡単なレイアウト図や参考ページを添えます。複雑な配置変更であれば、文章で長々と説明するより、ラフに矢印を書き込んだ方が早く正確に伝わることもあります。

こうした情報がそろっていれば、オペレーターは無用な確認を減らし、本来の制作作業に集中できます。

PDFコメントと手書き、どちらが伝わりやすい?

修正指示の手段としては、PDFコメント機能と校正紙への手書きが代表的です。

PDFコメントは、指示箇所を特定しやすく、テキストの置換や削除、履歴の管理、複数担当者間での共有に適しています。
一方で、多数のコメントが重なると画面上で確認しにくくなることや、ページ全体のレイアウトを把握しにくいこともあります。
手書きの赤字は、紙面全体を見渡しながら、配置の変更や複雑な指示を直感的に表現できる点が強みです。

ただし、筆跡によっては読み間違いが起きたり、複数の指示が交錯して判断しにくくなったりすることもあります。

では、どちらが優れているのでしょうか。

答えは、修正内容や制作環境によって異なります。文字の差し替えならPDFコメント、複雑な配置変更なら図を添えるなど、指示の性質に応じて使い分けるのが合理的です。

そして、どちらの方法でも大切なのは、修正する人が同じ完成形をイメージできるかどうかです。ツールの違い以上に、情報の伝え方が制作の効率を左右します。

「伝わる赤字」が短納期実現に直結する

修正指示は、単なる作業命令ではありません。編集者が考える「何を伝えたいか」と、オペレーターが実現する「どう形にするか」をつなぐ、大切なコミュニケーションです。

曖昧な指示を受けたオペレーターは、確認するか、自分なりに解釈して作業するかの判断を迫られます。確認すれば時間がかかり、確認せずに進めれば再修正のリスクが生まれます。

その積み重ねが、制作工程全体の生産性を低下させる要因になります。だからこそ、編集者は修正指示を出す際、次のことを意識したいものです。

  • 何のために修正するのか
  • 絶対に守るべき条件は何か
  • どこまでオペレーターの判断に任せられるのか
  • 完成形を共有するための情報は十分か

これらが明確になれば、指示を受ける側も安心して仕事を進められます。

そして、指示に矛盾がある場合や、もっとよい方法がある場合には、オペレーターから提案することもできるでしょう。よい編集者とは、すべてを細かく指示できる人ではなく、相手の専門性を引き出せる人なのかもしれません。
同様に、よいDTPオペレーターとは、指示をただ機械的に処理する人ではなく、編集意図を理解し、必要に応じて確認や提案ができる人だといえます。

赤字を通じて、お互いの意図と判断基準が共有されれば、確認や手戻りが減るだけでなく、仕上がりの品質も高まっていきます。

「伝わる赤字」とは、相手を思い通りに動かすためのものではなく、相手と同じゴールを目指すための共通言語なのです。

制作現場の生産性を高める第一歩は、こうした日々の小さなコミュニケーションを見直すことにあるのではないでしょうか。

Written By: 西原 雄太