InDesignのレイアウト作業は、AIでどこまで効率化できるのか
DTP制作の現場には、長年の経験によって支えられている作業が数多くあります。
一見すると単純に見える作業でも、実際には紙面設計、余白、視認性、情報の優先順位、そして仕上がりの美しさまでを含めた細かな判断が求められます。
今や、「なんでもAIに任せよう」「自動化すれば工数削減できる」という世の中ではありますが、すべてを機械的に自動化すればよい、という話ではありません。弊社が目指しているのもそこではありません。
制作現場を見渡すと、毎回同じ判断基準に基づいて行っている調整作業が少なからず存在していることに気づかされます。
「これは本当に手作業で続けるべきなのか」という疑問が出てきたとき、
✓自動化することで品質が安定する
✓デザイン性を逸失しないという条件分岐を経て、
「ルールが明確なら、処理の一部を自動化できる」となり、自動化の検討に入ります。
このプロセスを経ずに自動化を走らせると、「作ってはみたものの…」という悪い世界線が顔を覗かせます。
今回紹介するケースは、AIを活用し、InDesign上の商品画像レイアウトを効率化するスクリプト制作です。ぜひ御社でもご活用ください。
課題:自動化されていない「最後の手作業」
弊社が受注している定期カタログの制作において、商品シリーズの説明文や各種スペックの組版については、普通に一定の自動化が進んでいます。
情報量の多いカタログ制作において、こうした工程の自動化は、品質の安定と作業効率の両面で大きな意味を持ちます。
一方で、商品画像のレイアウトについては、これまで手作業で調整していました。
画像を配置するだけなら、単純な作業に見えるかもしれません。
しかし実際には、商品ごとのサイズ比率を保つ必要があります。限られた紙面の中で、できるだけ大きく、かつ無駄な余白を出さずに配置する必要もあります。さらに、商品ごとに定められた余白を守り、掲載順や点数を変えずに収めなければなりません。
つまり、これは単なる配置作業ではありません。制作の共通ルールを読み解きながら、商品を適切に見せるための調整作業です。
ただし、その判断条件を整理していくと、AIに作業を置き換えられる部分がありました。
AIに任せたのは、デザイン判断ではなく計算処理
今回、AIに任せたのは、紙面デザインそのものではありません。デザインの意図や見せ方の判断は、人間の領域です。商品の見え方、ページ全体の印象、情報の優先順位といった部分は、制作現場の経験と感覚が欠かせません。一方で、決められた条件に基づくサイズ計算や配置処理は、スクリプト化できる可能性があります。そこで、まず実際の誌面とは別に、サイズ計算専用のInDesignドキュメントを作成しました。ドキュメント上には、役割ごとに色分けしたボックスを配置しました。ヘッダーやスペックなど、サイズを変更しない固定要素はC100のボックスに設定しました。キャプションなどの固定要素はY100のボックスに設定しました。そして、サイズ調整が必要な商品画像に相当する要素をM100のボックスとして配置しました。C100とY100のボックスには、あらかじめ必要な余白も含めたサイズを設定しています。つまり、スクリプト上では、固定要素はそのまま扱い、M100のボックスだけを条件に合わせて拡大・縮小する設計です。このように、AIに依頼する前に、まず人間側で作業の構造を整理しました。ここが重要です。AIに丸投げするのではなく、制作ルールを分解し、どこを固定し、どこを可変にするのかを明確にする。そこに、現場側の設計力が必要になります。
Claudeへの指示内容
Claudeには、次のようなプロンプトを伝えました。
「InDesignのドキュメントにオブジェクト、つまりボックスを配置してあります。塗りがC100のボックスはサイズを変更しません。塗りがY100のボックスもサイズを変更しません。塗りがM100のボックスはサイズを変更して構いません。ドキュメントに配置されているボックスは、上から隙間なく並べます。順番や数を変更してはいけません。すべてのボックスを隙間なく並べたときに、高さの合計が指定したmm数になるようにしたいです。塗りがM100のボックスは、縦横比を変えてはいけません。また、M100のボックス同士のサイズ比率も変えてはいけません。この条件で、M100のボックスのサイズを変更して並べるInDesign用スクリプトを作れますか?」
この指示に対して、ClaudeはInDesign用のJavaScriptを生成しました。
一度で完成させるのではなく、対話しながら精度を上げる
最初に生成されたスクリプトは、期待どおりには動きませんでした。
指定した高さに収まらず、こちらが意図していた計算条件ともずれがありました。
これは、AIの能力不足というよりも、こちらの条件指定がまだ十分に整理されていなかったためです。人間同士のやり取りでも、要件が曖昧であれば、期待どおりの成果物にはなりません。AIとのやり取りも同じです。そこで、実行結果を確認し、Claudeに戻しました。
「指定した高さに収まっていない」「固定要素の扱いが想定と違う」「M100同士の比率は維持したい」「この条件も追加したい」このように、結果を見ながら原因を検証し、条件を追加し、スクリプトを改修していきました。
実行、確認、修正。このサイクルを3〜4回ほど繰り返したところで、要望どおりに動作するスクリプトが完成しました。AIは、最初から完成品を出してくれる魔法の道具ではありません。むしろ、こちらの意図を言語化し、実行結果をもとに改善を重ねることで力を発揮する、制作上のパートナーに近い存在です。
得られた効果:経験に頼る作業を、再現性のある処理へ
今回の取り組みにより、これまで手作業で行っていた商品画像レイアウトの調整を、スクリプト処理として実行できるようになりました。
特に大きかったのは、作業時間の短縮だけではありません。
縦横比を維持するこ
と。掲載順を変えないこと。
固定要
素を保持すること。指定された高さに収めること。要素同士の比率を崩さないこと。こうした条件を、毎回人の手で確認しながら調整するのではなく、ルールに基づいた処理として再現できるようになったことに意味があります。
DTP制作において、品質は偶然に任せるものではありません。経験に基づく判断を、できる限り再現性のある工程へ落とし込む。そこに、制作会社としての技術力があります。AIの活用も、その延長線上にあるべきだと考えています。
InDesignの自動化で重要なのは、作業を正しく分解すること
InDesignの作業をAIで自動化する際に重要なのは、いきなりスクリプトを書かせることではありません。
まず、作業を分解する必要があります。何を固定するのか。何を変更してよいのか。順番は変えてよいのか。比率は維持するのか。最終的にどのサイズへ収めるのか。余白はどこに含めるのか。こうした条件が整理されていなければ、AIは正しい処理を組み立てることができません。逆に言えば、条件を明確にできる作業は、自動化の候補になります。これはInDesignに限りません。DTP制作の現場には、定型的でありながら手作業として残っている工程が多くあります。ファイル名の整理、画像配置、スペック表の整形、定型レイアウトの調整、確認作業など、AIやスクリプトを活用できる余地はまだあります。
まとめ:AIは、制作の価値を下げるものではない
AIを使うというと、制作の仕事が単純化されるように感じる方もいるかもしれません。しかし、今回の取り組みで改めて感じたのは、AIが価値を発揮するためには、制作現場の知見が不可欠だということです。どの条件を守るべきか。どこまで自動化してよいのか。どこから先は人間が判断すべきか。それを見極めるのは、現場を知る人間です。AIは、DTP担当者の仕事を奪うものではありません。むしろ、繰り返し作業や計算処理を補助することで、制作者が本来向き合うべき品質判断や設計に時間を使えるようにするための道具です。「この作業、自動化できないだろうか」その問いは、単なる効率化の入り口ではありません。自分たちの制作工程を見直し、技術として磨き直すための問いでもあります。DTP制作の現場には、まだ改善できる余地があります。そして、その改善は、現場の経験とAIの力を組み合わせることで、より現実的なものになっていくはずです。
よくある質問
InDesignのレイアウト作業はAIで自動化できますか?
条件を明確にできる作業であれば、自動化できる可能性があります。たとえば、固定要素と可変要素を分け、縦横比、掲載順、余白、最終的な高さなどの条件を整理すれば、AIにInDesign用のスクリプト作成を依頼できます。
AIだけでInDesignのスクリプトは完成しますか?
一度で完成するとは限りません。実際には、スクリプトを実行し、結果を確認し、不足している条件を追加しながら改善していく進め方が現実的です。
DTP制作でAI活用に向いている作業は何ですか?
定型レイアウトの調整、商品画像の配置、スペック表の整形、ファイル名の整理、繰り返し発生する確認作業などが向いています。特に、作業条件を言語化できる工程は、AI活用と相性がよい領域です。
InDesignの自動化にはプログラミング知識が必要ですか?
専門的な知識があるに越したことはありませんが、AIを活用することで、JavaScriptやExtendScriptの知識が十分でなくても試作しやすくなっています。ただし、業務条件の整理や実行結果の確認は、人間側で行う必要があります。
カタログ制作の効率化にAIは役立ちますか?
役立ちます。商品情報の整理、スペック表の組版、商品画像の配置、定型レイアウトの調整など、カタログ制作にはAIやスクリプトで効率化できる工程が多くあります。